■ 音風景7
椿屋 津軽三味線コンサートにて


音、揺らぐが如く
ご縁あって、津軽三味線の音を聞かせて頂いた。 普段、読むことなど滅多にローカル紙で見つけた小さな広告、近所の喫茶店 での「津軽三味線の演奏」という文字に惹かれ、出かけてみることにした。 「当日申し込み」で中に入った。農家の土間の日だまりのような喫茶店の良 い雰囲気は前からよく知っているが、当日は来られている方、約20名のほと んどが年配の女性客という雰囲気に落ち着かないまま、演奏が始まった。 決して聞き慣れているとは言い難い音。 聞き慣れた鼓童のアルバムの一曲をコンサートで聞いた他は、少し前に静岡 駅で音に立ち止まさせられ聞いた、全国縦断というストリートミュージシャン くらいしか経験がない。これも、期待と何かしらの落ち着かない気分を助長す る。 穏やかな風貌の中に、音が続く。 プリングオフ・ハンマリングを繰り返ながらネックを縦横に動く激しい左手 アクションと、バチの動き。その音に、懐かしさと、静かな興奮を覚える。 何かある。少なくとも、外国音楽、ソウルミュージックとかを聞かなくても、 自分は、これを聞けば、何かを感じられる。 何かをたたき込む奏者と、それに対して、何かを返してくる三味線の音。で も、弾きに対して聞き手に伝わるのは激しさばかりではない。 西洋的な音の安定感の間に、いくつも入る中間的な揺らぎの音。 旅に似ている。帰るところがある人が、ふわっと旅に出て、帰るべきところ に帰る。その間にいくつもの魂の音が入る。 あるいは生きる不安定さにも。揺らぎの中に生きていて、束の間の安定に歩 みを休めるか、安定の中で生きていて、時折ある揺らぎを楽しむか。 3本の線の音は沖縄に飛び、南洋に飛び、津軽に戻る。旅の中に生き、揺れ に身を置く如く。 2ビートのピック使いを思い出す。その中で、メロディーが踊る。空気を揺 らすが如く。 03.03