■ 音風景14
ウィンター・ソング
=演奏者として=
以前、なぜかゴスペルフォークソングのグループに入れてい ただいていて、その間はフル稼働でとてもたのしい時間をすご させていただいた。リーダーの牧師さんを中心に毎月の静岡ゴ スペルフォークソングジャム参加や何ヶ所かの教会でのクリス マス賛美や、刑務所への慰問やら自分のような者にはなかなか できない体験もさせていただいた。 ひとつの、音楽の風景。 ---------------------------------------------------------- ----------------------------------------------------------12/26 静岡(不登校児らの音楽会に参加)
凩は外に堰かれゐて児らの笑み ストーブに丸まるく児らの添ふ 晩餐や持ち集ふ暖溢れゐて 我もまた居所のある暖炉かな 聖夜祭板の間に鳴る我の音 その年も押し詰まった頃、その年最後の企画として不登校児 の教会学校のクリスマス会に参加させていただいた。クリスチ ャン系の地味な教会は何ヶ所か経験あったが、そこはカトリッ ク系のシックなおちついたたたずまい。ひとり一品の食べ物の 持ち寄っての夕食会と広い一室に卒業生も含めて、小学生から 大学生、親までの音楽会。 なめらかな、ゆったりとした、何とも言えない良い雰囲気。 自分たちはPA(音響機材)をセットして、ちょっとしたライ トと一人1本のマイクで歌う、という、おそらく彼らにとって は特別な舞台をセットして、まずは夕食会と音楽会を楽しませ ていただいた。 自分が感じた空気・・・ 自分たちのように突然現れた(メインで歌う大人達としても) 者を受け入れる空気、それと、すごくすごく丁寧な雰囲気。 夕食会にしても、牧師さんと「なんか、僕らも居場所がある ねぇ」と話しあうくらい、誰もがいられるところ。 唄にしても間違えればそこから、しっかりとやり直して、そ の間には、適当におしゃべりをしながら、唄にも居場所があっ て、それぞれが雑居しながら、だるまストーブ色のぬくみ。 そのあと、一番良い時間に歌わせていただいたが、それはそ れで楽しく良い雰囲気の中で音楽させていただいたが、終わっ てみると、大げさな言い方をするならば、「生きていく上で、 大切な物は何?」「もっと自問しなさいよ」と彼ら、彼女らに 言われたような想いの音楽会だった。 自分の子をつれてくれば良かった。ここに居るような子供達 に話しかけて貰えると良いなぁ・・・とも思えた会だった。 ---------------------------------------------------------- ----------------------------------------------------------12/16 静岡刑務所にて
重寒く幾重の扉ひた入りぬ 音寒し開錠施錠扉ごと 黴臭やバーチャルに無き寒さかな 靴音やひとつひとつが冴え冴えし コンクリが靴底削る荒寒さ 回廊の抽象画に差す小春の陽 華やけてメリークリスマスの飾りあり 底冷えて薄明頼りセッティング ソファー座し小春陽豊か控え室 幕開き冬気と光りそこに満つ 坊主群れ人居たまへり山眠る 起立礼そこ冬ざれて人が居り 罪や罪牧師の語るクリスマス 優しさを込め語りかけクリスマス 応えなくなお語りかけクリスマス アーメンとここで声和すクリスマス 会話無く歌をはじめぬクリスマス 曲間にジングルベルと弾いてみぬ 窓のみが拍子取るかのもがり笛 救いなる声のみ響く冬荒野 ありがとう冬気を震う太き声 外は冬昼餉用意の優しき香 窓毎に格子の先に冬日差す 外に居ては我も異教徒クリスマス ---------------------------------- 00年の暮れのこと、音楽をご一緒させていただいている牧師 さんから「クリスマスの催しとして音楽での刑務所慰問の依頼を 受けたので」とのお誘いを受け、自分も同行させていただいた。 塀の中は幾多のドラマで描かれた世界がかいま見えるところで はあった。 体育館のステージのようなところでクリスマス会は行われた。 牧師先生方のお話は、聖誕日としてのクリスマス・人の罪・罪を 背負って下さったイエス等々、賛美歌合唱も含め、教会で普通に 説かれるであろうクリスマスの集いがなされ、受刑者の方々の応 えもアーメン(おっしゃるとおり)。一般に開かれるサンタさん が来る会ではなく、あくまでも聖なる日を讃える形を保った物だ った。 その後、修養の場としてかずっと膝を崩さず背筋を伸ばしてお られる受刑中の方々に対し、フォークソング的なゴスペルを30 分演奏させていただいた。1曲ごとの拍手以外に物音はなく時折 の風に打たれる分厚い窓の音のみが音楽とクロスしていた。 自分はひたすらご一緒する牧師夫妻のハーモニーをじゃませぬ よう、音の厚みを作るよう、弾かせていただいた。 相互の会話は無く淡々と進んだが、最後の頃にやっと和らいだ か、古いフォークソング独特の一緒に楽しめる雰囲気がほんの少 し感じられたことのみ、自分にも救われる思いがあった。 刑務所を出る時に、小春日の陽が暖かく、壁がまぶしく、多弁 になった自分に気付いた。